たとえばあなたが
礼子と別れて1時間後。
崇文は、以前千晶とふたりで中西刑事に会ったファミリーレストランで、コーヒーをすすっていた。
(中西さん、無事に帰ったかな…)
あれから何を聞いても、ずっと様子がおかしかった礼子。
いつものおかしさとは違う、明らかな異常を感じた。
初めて聞かされた、婚約者の存在。
崇文がその男について聞こうとしても、礼子は笑ってばかりで、まともな会話ができなかった。
踏み込んではいけない場所に、足を踏み入れた感触。
崇文の心に、罪悪感が芽生えた。
すすったコーヒーはただ苦く、何の香りもしない。
代わりに礼子の香水の香りが、まだ鼻の中に残っていた。
「いらっしゃいませ~」
アルバイト店員の甲高い声に顔を上げると、中西刑事が店内を見回していた。