たとえばあなたが



「彼が姿をくらましたのは、自分のせいじゃないかって言い出してさ」

礼子は毎日、自分を責め続けたと中西は言った。



そのうち、自分の容姿に問題があると思い込んでは、化粧が濃くなっていった。



体が匂うのではないかと思い込んでは、香水をふりかけるようになった。



堅苦しい話し方が悪いのではないかと思い込んでは、若い女の子の話し方を真似るようになった。



「あいつが死んだって知らせがあってからはもう、それこそ気が狂ったようになって、そのうち家を飛び出して行った」

「じゃあ、今、居場所は」

「知ってるよ、一応な」

(一応、か)

「元気にしてるって聞けて安心したよ。ありがとな」

「いえ、そんな」



崇文は、もう一度古びた写真を手にとって見つめた。

「…中西さん、この写真、持ち歩いてるんですか」

角が折れ曲がっていたり、シワが入ったりしている。

それがより一層、長い年月を感じさせた。




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