たとえばあなたが



中西は、ふうっと煙を吐いて、自嘲気味に笑った。

「会社の机の引き出しに入れてるんだ。ふたりを幸せにしてやれなかった悔しさを忘れないようにな」

「会社?」

「署のことだよ」

「…そうですか」



礼子に、兄である中西との架け橋になってもらうのは諦めたほうが良さそうだ。



「…中西さん」

「あ?」

「また、来てもいいですか」



こうなったら、本人に粘り強く交渉するのが、いちばん効果的だと崇文は悟った。

今日追い返されなかったことがOKのサインだと受け取っても、考えすぎではないだろう。



「…ほどほどにな」

中西は、タバコを灰皿に押し付けた。



―…色あせた写真の中で、若き日の礼子が婚約者と腕を組んで、楽しそうに笑っている。



それから20年後にこんな未来が待っているとは、誰が想像しただろうか。



清々しいふたりの笑顔が、崇文の目に眩しく映った。




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