たとえばあなたが



中西と別れて、崇文は新宿へ向かう電車に乗った。



あの婚約者は、本当に小山なのだろうか。

他人のそら似だと信じたい気持ちが、崇文の中にはある。

けれど、そう言うにはあまりにも似過ぎていた。



中西は、彼のことを松田と呼んでいた。

事件の被害者の部下だとも言っていた。

それは崇文も知らないことだった。



けれどこのままでは、思わぬ情報が手に入ったと手放しには喜べない。



彼がもし小山だとしたら、なぜ今、生きているのか。

そして名前を変えてこの地に戻って来た目的は何か。



―…千晶の父親の会社で起こった横領事件に関与した疑いで解雇された6人の中に、松田がいた。

木村家殺害事件はその直後だったが、その6人は聴取の結果、関係性がないとされている。

ところが松田だけが謎の失踪、そして翌年、他殺体で発見された。

中西の話をまとめると、こういうことになる。



(…どういうことなんだ…)



いずれにしても、このことはまだ、千晶には言えない。

真実を確かめるまでは。








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