たとえばあなたが
ファミリーレストランを出ると、冷たい風が中西の顔に吹き付けた。
「この冬、無事に乗り越えられればいいけどねぇ」
まだまだ寒さはこれからが本番だというのに、中西は柄にもなく弱気な独り言を漏らした。
歩きながら、携帯のアドレス帳で妹の名前を探す。
【礼子】
中西は、懐かしささえ覚えるその名前を選択して、少しためらったあと、発信ボタンを押した。
礼子は、きっと出ないだろう。
中西としても、何を話していいのかわからなかった。
心のどこかで、出ないでくれと願う自分に嫌気がさす。
もう、どれだけ話していないだろう。
(元気だって聞けただけ、良しとするか…)
しばらくコールを鳴らし続け、中西は携帯を閉じた。
ふたたび視線を前に向けると、街が灰色がかって見えた。
ずっと昔にも、こんな色の景色を見ながら歩いたことがある。
そうだ、たしか…―
松田が死んだと知らされたのも、寒い日だった。