たとえばあなたが
千晶が終日の外回りを終えて帰宅すると、一輪挿しの花がしなだれていた。
「あーあ、枯れちゃった…」
そういえば、ずいぶん長い間放ったままだった。
千晶はソファに座って、花に顔を寄せた。
「ごめんね~…」
花びらが水分を失って、年寄りの肌のようになっている。
頭が重いと言わんばかりに折れ曲がった茎も、色がくすんでいた。
この花に代わる新しい花は、用意していない。
一輪挿しの花は欠かさないと自分で決めたルールが、ここで途切れてしまった。
(明日また、会社の花瓶から抜いてこよう)
脇に置いたバッグの中で携帯のバイブが震えたのは、そのときだった。