たとえばあなたが
「じゃ、私、準備してくるね」
萌が、足早にキッチンへ向かった。
「あ、うん」
千晶が首をかしげながらリビングに入ると、崇文がバツの悪そうな顔をして待っていた。
「…何よ、その顔…」
「いや、悪かったなって思ってさ…この間のこと…」
千晶はドキリとした。
具体的に言ってはいないとはいえ、万が一萌に聞こえてしまったら、どうするつもりなのか。
「やめてよ、こんなところで。それに、許してあげるってメールしたでしょ」
崇文は鼻を掻いて、もう一度小さく、ごめん、と言った。
こういう空気は苦手だ。
もちろん、得意な人もいないとは思うけれど…―
千晶は手荷物を置いて、キッチンで鍋の用意をしている萌を手伝いに行った。