たとえばあなたが



萌が、よいしょ、と土鍋を抱えて、乾いたタオルで拭きはじめた。

萌の細い腕では土鍋が落ちてしまいそうで、千晶も手を貸した。



「普段こんなに大きいお鍋使わないから、出番があってうれしい」

と喜ぶ萌の顔を至近距離で見ると、改めてかわいいと思った。

何よりも、白くて柔らかそうな肌が羨ましかった。



千晶の肌質は、どちらかというと引き締まっている。

格好いい、と萌は言ってくれるけれど、お世辞だということは百も承知だ。



「…萌ちゃんってさ…」

「ん?」

「毛穴がないのね」



ツルンとしていて、まさにゆで卵。

とても30過ぎとは思えないハリ。

さらに、近づいて初めてわかるほど薄くつけられた香水の品の良さ。



これで、どうして彼氏ができないのか不思議だ。



「世の中の男って、本当に見る目がないわ」

千晶がため息交じりに言うと、萌はまた、

「ふふ」

と笑った。




< 292 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop