たとえばあなたが



キッチンの萌は作業に夢中で、こちらを気にする様子はない。

千晶はそれを確認すると、崇文に小声で言った。



「タカちゃん、約束守れなくてごめんね」

「…約束?」

「ほら、あのときのふたつの…」

心を開きすぎないこと。

恋人を作らないこと。

「ああ、あれなら俺だって。こうやって萌ちゃんと仲良くしてるし」

「でもタカちゃんは、ちゃんと彼女作らずにいてくれてるのに…」

「あー…」

崇文が微妙な反応を示した。



(やっぱり私が彼氏作ったこと、良く思ってないんだろうな…)

けれど仮に小山と別れたとしても、想いまで断ち切れるわけではない。

心残りには変わりないということだ。



「なんか私、どうしたらいいかわからなくなってきちゃった…」

思わず頭を抱え込むと、崇文がそっと千晶の頭を撫でた。




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