たとえばあなたが
「ん?」
萌は電話で話しながら、千晶と目が合うと慌ててそらした。
「…ん?」
その視線に何の意味があったのか、千晶には皆目見当もつかない。
「みっちゃんの見間違いじゃないの?だって一度見ただけでしょ」
美佐は一体、何の話をしているのだろう。
それからしばらく、同じようなことを繰り返して、萌は電話を切った。
「どうしたの?何かスクープ?」
冗談半分に千晶が言うと、あながちはずれてもいないとでも言うように、萌は目を見開いた。
「あのね、千晶、覚えてる?ほら、前の指定席にいた男の人のこと」
「あー、2回目にスーツ着て現れたっていう?」
たしか少し前に、美佐が言っていた。
「その人が、どうかしたの?」
萌が思わせぶりに間を空けて言った。
「その人がね」
萌はソファに座っているのに、床に座っている千晶を上目遣いで見ているのが不思議だった。
「なんと、小山さんだったんだって」