たとえばあなたが



「ん?」

萌は電話で話しながら、千晶と目が合うと慌ててそらした。



「…ん?」

その視線に何の意味があったのか、千晶には皆目見当もつかない。

「みっちゃんの見間違いじゃないの?だって一度見ただけでしょ」

美佐は一体、何の話をしているのだろう。

それからしばらく、同じようなことを繰り返して、萌は電話を切った。



「どうしたの?何かスクープ?」

冗談半分に千晶が言うと、あながちはずれてもいないとでも言うように、萌は目を見開いた。



「あのね、千晶、覚えてる?ほら、前の指定席にいた男の人のこと」

「あー、2回目にスーツ着て現れたっていう?」

たしか少し前に、美佐が言っていた。

「その人が、どうかしたの?」

萌が思わせぶりに間を空けて言った。



「その人がね」



萌はソファに座っているのに、床に座っている千晶を上目遣いで見ているのが不思議だった。



「なんと、小山さんだったんだって」




< 305 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop