たとえばあなたが



結局、崇文に先週の中西礼子とのことは聞けないまま、千晶は崇文と別れた。

崇文が言うように、本当に何もなかったのだとは思っていない。

(私に隠さなければいけないような、何か…)

今追及しようと思えばできたはずなのに、どうしても躊躇してしまう。

真実を突き止めるということが、こんなにも勇気のいることだとは思わなかった。

現実を思い知ると同時に、自分の弱さまでも改めて痛感した。



冷たい空気を思い切り吸い込んで、ふぅっと吐き出す。

真っ白な息は、すぐに消えてなくなった。

けれど、その冷たさだけはいつまでも千晶の体に残り、しっかりしろ、と気を引き締めてくれるようだった。



さっきの崇文の、

『やめてもいいんだぞ』

の言葉に、一瞬心が揺らいだ。



あのとき電話が鳴らなければ、やめたい、と言っていただろう。



(…そんな軽い決心じゃなかったはずでしょ!)

千晶は唇をぎゅっと噛み締めて、薄暗くなってしまった冬の道を歩いた。















< 311 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop