たとえばあなたが
結局、崇文に先週の中西礼子とのことは聞けないまま、千晶は崇文と別れた。
崇文が言うように、本当に何もなかったのだとは思っていない。
(私に隠さなければいけないような、何か…)
今追及しようと思えばできたはずなのに、どうしても躊躇してしまう。
真実を突き止めるということが、こんなにも勇気のいることだとは思わなかった。
現実を思い知ると同時に、自分の弱さまでも改めて痛感した。
冷たい空気を思い切り吸い込んで、ふぅっと吐き出す。
真っ白な息は、すぐに消えてなくなった。
けれど、その冷たさだけはいつまでも千晶の体に残り、しっかりしろ、と気を引き締めてくれるようだった。
さっきの崇文の、
『やめてもいいんだぞ』
の言葉に、一瞬心が揺らいだ。
あのとき電話が鳴らなければ、やめたい、と言っていただろう。
(…そんな軽い決心じゃなかったはずでしょ!)
千晶は唇をぎゅっと噛み締めて、薄暗くなってしまった冬の道を歩いた。