たとえばあなたが
もしその男が小山だとしたら、千晶の行きつけの店にいたことが偶然とは考えにくい。
千晶を探すうちに、そのカフェに辿り着いたのだろう。
そうして千晶の所在を確認したうえで、同じ会社に入ったのだとしたら。
(小山があの事件の犯人だという可能性が高いよな…)
つまり、木村家の唯一の生き残りである千晶に、何かするために戻って来たのだ。
そうなると、桜木和子の殺害も小山がやったと考えていい。
和子は木村家と親しかった。
千晶の父親が部下たちを連れて『秋桜』へ行ったこともあるだろう。
その部下の中に小山がいたことを、千晶に連れられて行ったときに和子が覚えていたとしたら。
接客業や女性の記憶力のすごさは、美佐で実証済みだ。
ありえない話ではない。
しかしそれらの話はすべて、小山が【松田】という人間だったらの話だ。
小山と【松田】の関係がわかるのは、中西兄妹だけ。
だが崇文は、【松田】が生きているかもしれないことを、まだ中西刑事には知られたくなかった。
木村一家殺害事件は時効となっているとはいえ、ここで和子との関連を疑われ、小山の身柄を拘束されては、千晶との計画が台無しになってしまう。
(そもそも計画を実行できるかどうかも、千晶次第だけどな…)