たとえばあなたが



礼子を待つ間、崇文は何度も深呼吸を繰り返し、大丈夫と言い聞かせた。

自分がどんなに酷なことをしようとしているか、わかっているつもりだった。

結果次第では、礼子に計り知れない衝撃を与えてしまうことになることも。



崇文の頭の中は、罪悪感で満たされていた。

目的のためなら手段を選ばないと決めたくせに、冷酷になりきれない自分を情けなく思うときもある。

けれど、ここで止まってしまっては意味がない。

(大丈夫、できる。大丈夫)



崇文は、幼い千晶を思い出した。

淀んだ空気の家で、変わり果てた家族を前にした少女の小さな背中。

あの日、その泣き狂う千晶を後ろから抱きしめて、崇文は誓った。

俺が守ってみせる、と。



真実を突き止めることが【守る】ことになるのか、わからない。

たぶん違う、と思う。

けれど崇文は、千晶がそうしたいと言うのなら、どこまでも付き合うと決めていた。



(俺は、何を犠牲にしてでもやり遂げるって決めたんだ…!)



心臓の音が、体全体を揺らすように響いた。




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