たとえばあなたが



20年以上も前、何も言わずに突然消えた婚約者。



礼子は、彼が消えた原因は自分にあると思い込んだ。

毎日自分を責め続け、どうしたら婚約者が帰ってくるかばかり考えた。

外見を変え、話し方を変え、それまでの自分をすべて壊していった。

結果的には方向を間違ってしまったと言わざるを得ない。

周囲の人は皆、そんな礼子を哀れんだ。

兄でさえも。



礼子の胸の奥にはいつも、婚約者への深い愛情があった。

それをわかっていても、誰も彼女を救うことができなかった。

正しい道へ導くこともできず、ただ壊れていく礼子を見ていることしかできなかった。

それを思うと、胸が締め付けられるようだ。

崇文はため息をついて、化粧という仮面に隠された礼子の素顔を思い浮かべた。




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