たとえばあなたが
礼子は待ち合わせ場所を確認するように視線を泳がせ、店の中で手を挙げる崇文の姿ににっこり笑った。
真っ赤な口紅がニュッと横に伸びて、
(Q太郎みたいだな…)
崇文は思わず吹き出しそうになった。
けれど、礼子の背景を知ってしまったせいか、以前のような嫌悪感は感じない。
人間の単純さが、馬鹿馬鹿しく思えた。
「石田さん、お待たせしましたぁ~」
と、小走りでやって来た礼子を崇文は立ち上がって迎えた。
「お疲れさまです。すいませんね、こんなところで」
「大丈夫ですぅ。会議室なんかより、ずっと気楽~」
礼子はハンドバッグを崇文の隣の椅子に置いて、財布を持って注文に向かった。
その隙に、崇文は腕時計を確認した。
午後1時ちょうど。
予定通りだった。
あとは小山が通るのを待つのみ。
運命のときが、すぐそこまで近づいていた。