たとえばあなたが



―…俺は



(俺は、生意気な態度ばかり取ってみたところで、結局ひとりじゃ何もできない)



さっき腿に乗せられていた大輔の手は、いつの間にか崇文の肩に回されていた。



大輔は刑事と向かい合って、話し込んでいる。



崇文は、拳を握り唇を噛んで、あの光景を頭から追い出そうと目をつぶっていた。



(今だって、親がいなければ、俺は110番だってできずに、ただ震えて怯えて、泣いていただけかもしれない)



崇文は、自分が情けなかった。



子供扱いされるのを嫌って、タバコを吸ったりバイクに乗ったりする友達と付き合った。



ちょっと強く言うとすぐに引っ込む両親を軽蔑した。



俺はもう大人だ、と粋がっていた。



でもそんなことに、いったい何の意味があったのか。



その行為の、どこが大人だったのか。



こんなときに冷静になって対等に刑事と話ができる父親のほうが、



(…よっぽど本物の大人だ)



そんな当たり前のことにさえ、こんなことにならないと気づけないほど、自分は子供だった。




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