たとえばあなたが
小山は、今がいちばん大事な時期だと思っている。
今は誰にも怪しまれないようにすることを最優先に行動したい。
そのためにも崇文と会うことは避けたかったが、こうなったら余計な話はせずに、打ち合わせに専念するしかない。
小山がビルを出ると、昨夜からの雨が続いていた。
傘を広げ、駅まで歩く。
背が高いせいで、すれ違う人の傘から滴り落ちる雫が、小山のスーツの袖を濡らした。
社内ルールとして、外出先が駅から近い場合は社用車の使用が禁止されているけれど、こんな雨の日くらいは許可して欲しいものだと小山は思った。
駅は、雨に加えて、昼過ぎという半端な時間帯のため、人がまばらだった。
小山はちょうど来た電車に乗り込み、座ってすぐに資料を取り出した。
来年度は、取引先をアートフィールから変更するつもりだ。
すでに代わりとなる企業の目星もついていて、今日はその意思を松越に伝えなければならない。
すでに何度も目を通した資料を、再度確認した。
ペラペラと紙をめくって最後の1枚を見終えたとき、ふと我に返って、小山は小さく笑った。
(…俺は一体、何をやってるんだか…)