たとえばあなたが



礼子はまるでロウ人形のようにピクリとも動かず、まっすぐに交差点を見ていた。

視線の先では、小山がいぶかしげな顔をして立っていた。

そのときの礼子の形相を、何と形容すればいいのか崇文にはわからない。

ただその目は、この世のものではない何かを見たような、驚愕と恐怖の色味を帯びていた。



やはり、間違いないのだ…―



この反応は、間違いない。

崇文は確信した。

(やっぱり、小山はこの人の婚約者だったんだ…!)

そして決定的なひと言が、礼子の口から発せられた。



「聡さん…」



【松田】のフルネームは、松田聡と言う。

礼子の口から発せられた名前と、礼子の兄である中西刑事から聞いていた名前とが一致した。



「中西さん…」

崇文が呼びかけた途端、礼子は弾かれるように店を飛び出した。




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