たとえばあなたが



「礼子!」

小山が礼子のあとを追おうと立ち上がると、その腕を崇文が掴んだ。



「…っ!離してくれ!」

「あんたは行くべきじゃない!」

崇文が叫ぶと、小山はぴたりと足を止めて崇文に向き直った。



雨で濡れた髪が、小山の彫の深い顔に影を作った。

険しい表情で崇文を睨みつけ、影がその迫力を倍増させているようだった。



この顔が、小山の本当の顔なのかもしれない。

崇文は、身震いするほどの恐ろしさを感じた。



「…どういうことだ」

ゆっくりと、いつもよりもさらに低く、小山が言った。

「ここじゃ目立つから…こっちへ」

崇文は、人目を避けるように足早に交差点を離れた。




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