たとえばあなたが
真実を知らなければ、これ以上先へ進めない。
崇文の脳裏に、千晶の顔が浮かんだ。
千晶のための…―
千晶の思いを果たすための、5年間だった。
無駄にはしない、絶対に。
何を犠牲にしてでもやり遂げると決めたのだから。
「…何か言えよ」
黙ったままの小山に、崇文の苛立ちが募る。
「気持ちはわかるよ、かつての恋人が突然あんなふうになって目の前に現れたら誰だって…―」
「お前にはわからない」
崇文の言葉に被せるように、冷たく、吐き捨てるような口調で小山は言った。
「誰にもわからないよ。俺の気持ちも…礼子の気持ちも…」
そして小山は、礼子が走り去った方に顔を向けた。
路地の入り口でふたりを遠巻きに見ていた野次馬たちは、小山と目が合うと、慌てて何事もなかったようなフリをして、歩き去った。
ザーザーと雨の音だけがうるさく響く。
濡れた前髪から垂れる雨の雫が、涙のように小山の頬を伝っていた。