たとえばあなたが
容疑が晴れると、松田はまず東京を離れることを考えた。
依然として捜査は続いている。
いつ、また容疑の矛先が自分に向けられるかわからない。
そんな状況の中、このまま礼子と結婚して何事もなかったように過ごすわけにはいかない。
姿を消すことで再び容疑が自分に向いたとしても、逃げてしまえばこちらのものだ。
とにかく、すぐに捕まる場所にいてはいけないと思った。
油断は禁物だ。
松田は、部屋の押入れから大きなボストンバッグを取り出して、最小限の衣服と生活用品を詰めた。
そして空いたスペースに、あの日木村家から持ち帰った【凶器】を布にくるんで忍び込ませた。
(行くなら、静岡か名古屋あたり…―)
田舎は目立つ。
かと言って大阪ほど人が多いと、それだけ情報量も多く、危険だ。
田舎過ぎず都会過ぎない土地を求め、松田が姿を消したのは、その翌日だった。