たとえばあなたが
青年は、名前を小山徹といった。
北海道の室蘭出身で、この好景気に乗って先週、浜松までやって来たのだと言う。
「室蘭ってどんなとこ?」
「なーんにもないところです。あるものといったら自然…と今の時期は雪ですかね」
ガヤガヤと大勢の客で賑わうバーのカウンターで、松田と小山はふたり並んでグラスを傾けた。
よく似た背格好のふたりは、そのときの客の中でも目立ってスタイルが良く、女性客の視線を集めていた。
松田はなるべく顔が人の目に触れないように、カウンターで前だけを見ていた。
「じゃあ、浜松の寒さなんてなんてことないだろ」
「そうですね。でも思ってたより寒いです」
小山は、白い歯を見せて笑った。
「家族は?」
「実はオヤジとふたりで暮らしてたんですけど、勘当されちゃって」
そう言うと、小山はバツが悪そうな顔をした。