たとえばあなたが
「勘当って、今どき珍しいね」
「俺がいつまでも定職に就かないもんだから怒って。もう養ってやらん!って言われました」
養ってもらえないのなら室蘭にいる必要はない、と勢いで荷物をまとめて飛び出して来た、と小山は言った。
「じゃあオヤジさん、キミが今浜松にいることは…」
「知らないです。友達にも言って来なかったし、完全にゼロからのスタートですよ」
「ゼロから…」
「ひとりで生きていくんだから、仕事もきちんと見つけないとダメですよね」
小山は、希望に満ちた力強い目をしていた。
「…そうか。そうだな、ひとりで…」
(この出会いは、神の助けかもしれない…)
『ゼロからのスタート』
その言葉に、松田はある可能性を見出した。
今、隣で目を輝かせるこの男が、もしかしたら自分を救ってくれるかもしれない…―
季節は冬。
松田が最初の殺人を犯してから、もうすぐ1年が経とうとしていた。