たとえばあなたが
小山徹には、何の恨みもない。
それどころか、あのまま一緒にいれば心を許せる友になれたかもしれないとさえ思う。
『ゼロからのスタート』
バーで小山が言ったそのひとことが、自分の首を絞めることになってしまった。
「ごめんな、小山くん。でも…キミだって悪いんだ」
松田は、新聞に小さく載っている自分の顔写真を眺めた。
本当は、ここに載るべきなのは自分の顔ではない。
小山徹の顔を思い浮かべて、新聞の写真に重ね合わせてみた。
「ごめんな…」
キミが偶然、俺に話しかけたりするから…―
キミの体格が、あまりにも俺に似ていたから…―
キミが『ゼロから』なんてヒントを俺に与えたりするから…―
「だから、キミだって悪いんだ…」
こうして松田は、小山徹と自分を入れ替えることで、『ゼロからのスタート』を切った。