たとえばあなたが
(…そういえば、下の娘はどうしてるだろう)
あの日家にいなかったおかげで命拾いをした、末娘の木村千晶。
今頃は27、8歳になっているはずだ。
そんなことを考えているときだった。
【今日は、アルフレッド・グレインさんをはじめとする海外の画家作品を仕入れているリアル・アリスの方にお越しいただきました~】
テレビカメラが、ふたりの若い女性を映し出した。
【こちらは、リアル・アリスの佐山萌さんと木村千晶さんです!】
レポーターに紹介されたふたりのうち、ひとりの女性がカメラに向かってニッコリ笑いかけた。
もうひとりの女性はどこか居心地が悪そうで、カメラのほうを見ようともしていなかった。
松田は、その無愛想な女性の下に出たテロップに目を丸くした。
【営業・木村千晶さん】
それはたった今、どうしているだろうと思ったばかりの名前。
突然頭に浮かんだのは、虫の知らせだったのか…―
松田はソファから転がり落ちるようにしてテレビの前まで行くと、画面にぐっと顔を近づけ、その女性を凝視した。