たとえばあなたが
「外見だけのせいじゃない。会うたび、言葉を交わすたびに、キミたちの愛に包まれて育った千晶に惹かれていく自分がいた」
松田の声が、震えていた。
「…このまま…―」
感情が昂り震える体を両腕で抱えながら、松田は足元に広がる水溜りをじっと見ていた。
「このまま、千晶と幸せになりたいと思った…」
聞き取るだけで精一杯の、か細くかすれた声。
静かに目を伏せた松田の言葉に、崇文は耳を疑った。
「…幸せ、に?」
思いがけないセリフだった。
きっとそれは、松田の嘘偽りない本心だ。
だけど、だからこそ、何という身勝手な言い分だろうと思う。
「俺にだって幸せになる権利はあるよ」
自嘲気味に言う松田の真意を読み取ることは、崇文にはできなかった。