たとえばあなたが
崇文は、一瞬でも松田の境遇に心を動かされた自分を恥じた。
和子を殺したことを、この男はなぜ、笑みを浮かべて話すのか…。
苦悩の表情で千晶のことを話す松田と、和子のことを笑って話す松田が同じ人物とは思えず、崇文の背中に悪寒が走った。
「おばさんは…俺にとっても大切な人だったんだ。人間的にも素晴らしい人だった。そんな人を殺したヤツに…幸せになる権利なんて…」
「あるに決まってるじゃないか」
怒りに拳を震わせる崇文に、松田は吐き捨てるように言った。
「考えてもみろ。俺が何をしたって言うんだ?」
バシャッと派手な音を立てて、松田が立ち上がった。
「横領の濡れ衣を着せられて、そのせいで時効を迎える日まで、俺がどんな思いで生きてきたと思う?!」
「違う!」
崇文の大声に、路地を横切る通行人が驚いて足を止めた。