たとえばあなたが
「ねえ千晶。明日の夜、空いてない?」
佐山萌は、同じ箱に乗り合わせたサラリーマンに遠慮するように、小声で言った。
「明日?」
萌が急な話を持ちかけてくるときの内容は、大抵決まっている。
嫌な予感がして、木村千晶は顔をしかめた。
「飲み会、どうしても千晶にも来てほしいのよ」
ねっお願い!と言って、萌が千晶の目の前で手を合わせている。
「萌ちゃんさぁ、いったい何歳までコンパなんて行くつもり?」
千晶は、予想が的中して軽くため息をついた。
「何歳って、彼氏ができるまで行くに決まってるでしょ!」
どうやら、明日の『飲み会』には、かなり気合を入れている様子だ。
『1階です』
と機械的な声がして、ぞろぞろと背広姿のおじさまたちが散って行った。
千晶と萌も、彼らに続く。