たとえばあなたが
あまりのタイミングの良さに、着信の相手も確認しないまま通話ボタンを押すと、聞きなれた声が耳に入った。
『あー木村さん?悪いね、仕事中に』
「…あら。どうかされましたか、石田さん」
わざとらしく苗字で呼ぶ崇文に、千晶もわざとらしく応対した。
『いやさぁ、ちょっと…』
会社用の携帯にかけてきたところをみると、緊急の用件なのだろう。
「何よ、今小山さんと打ち合わせ中じゃないの?」
千晶は冷静を装いながらも、心臓の鼓動がどんどん速くなるのを感じた。
『あー…そう、なんだけど』
「じ…焦らさないで用があるなら早く言ってよ。こっちだって忙しいんだから」
歯切れが悪い崇文に、千晶の携帯を持つ手が汗ばむ。
なぜ小山と打ち合わせ中の崇文が電話をかけてきたのか、考えたくない。
予感は、予感のままであって欲しい。
けれどこの電話が、予感は現実となって近づいていることを教えている気がした。
「早く…言ってよ」
もう一度せかすと、崇文が口を開いた。
『……見つけたよ』