たとえばあなたが
1989年3月24日。
時代が昭和から平成に移り変わり、ようやく落ち着きを取り戻した頃。
「明日の博覧会、混んでるかなぁ」
小学5年生の少女が、興奮で頬を赤らめていた。
「朝早いから、もう寝ましょうね」
と叔母の朋美に言われ、はぁい、と布団にもぐる。
朋美がリビングに戻ると、彼女のひとり息子がソファに横になって、テレビを見ていた。
素直で愛らしい姪っ子とは対照的な生活ぶり。
高校2年の修了式を終えて帰宅してから、ずっとこんなふうにダラダラしている。
最近は悪い仲間と遊んでいるようで、母親としては気が気でなかった。
「ねえ、早くお風呂入ってきてよ。お父さんもまだなんだから」
と声をかけても反応しない。
少年は、ただぼんやりとテレビ画面を眺めたままふぅ、とため息をつく母に、
「俺もうちょっとしたら出かけるから」
とぶっきらぼうに言った。