たとえばあなたが
地下室へ続く階段は、雨のせいでいつにも増して冷え込んでいた。
緊張と寒さで感覚がなくなってしまった指をドアノブにかけて、千晶は少しためらいを見せた。
どんな顔をして入ればいいのか、わからない。
このドアの向こうに、探し続けてきた人間がいる。
大好きな家族の命を奪った犯人が…。
ここに来てその現実に、言いようのない緊張を覚えた。
心臓がドクンドクンと波打つ音が聞こえる。
かすかに震えた手をもう一度ドアノブに近づけると、小さくパチッと静電気の光が走った。
「いたっ…」
ほとんど冷静さを失っていた千晶を、我に返してくれたかすかな刺激。
千晶はきゅっと唇を噛み締めて、目の前に立ちはだかるドアを見つめた。
その目は力強く、そこにはもう、ためらいや迷いはなかった。