たとえばあなたが
ゆっくり押したドアが、いつもよりも重く感じる。
いつの間にか取り替えられていた蛍光灯の光が、ドアの隙間から漏れ出した。
まるで知らない世界へ誘うような、眩しい光。
けれど、その先に見えた部屋はいつもと何ら変わりなかった。
ただひとつ、ここにいて欲しくなかった人の存在を除いては。
「早かったな」
崇文が、千晶のお気に入りの黒光りする椅子に座っていた。
「…会社からそんなに遠くないから…」
「あー仕事、大丈夫だった?」
きっとわざとそうしているのだろう。
崇文は妙に能天気な言い方をした。
「うん、大丈夫…―」
視線を、崇文から逸らすことができない。
目の片隅に映り込む影を見ることが怖い。
千晶の本能が、崇文の隣に座る人物を見ることを拒絶していた。