たとえばあなたが
もし、今目の前にいる人物が別人だったなら、迷わず銃を手にして、引き金を引いていただろう。
千晶には、それだけの覚悟と心の準備があった。
けれど今は、わずかに残る理性がヤメロと言う。
涙が意思とは関係なくとめどなく溢れ出て、しゃくり上げるうちに呼吸が苦しくなった。
「どうした。早く撃て、さあ」
挑発するような松田の言葉に、千晶は激しく首を横に振った。
すると、チッという舌打ちが聞こえ、千晶の右腕が松田の手に掴まれた。
「…いやっ…!」
氷のように冷たい松田の手が、千晶に銃を握らせようとする。
「やめて!」
「撃て!!」
抵抗する千晶に無理矢理銃を握らせ、松田は千晶の肩を揺さぶった。
「早く撃て!俺がお前を殺す前に!」
松田の叫びが、飾り気のない地下室に響いた。