たとえばあなたが
崇文は、携帯の両端を握って力をこめた。
バキッと音がして、折りたたみ式の携帯が折れた。
こんなことをしても意味がないことはわかっていた。
それでも、省吾がどこかへ逃げるまでの時間稼ぎ程度にはなるかもしれない。
崇文は携帯を床に投げ捨て、足で踏み潰した。
「あ~あ、ついに言っちゃったよ、俺」
―…萌ちゃんが好きだ。
最後まで隠し通すつもりだった言葉。
それなのに、ここに来て言わずにはいられなかった。
会いたい、と思った。
ずっと押し殺してきた感情が、一度口に出した途端にどんどん膨らんでいく。
(いっそ俺も千晶みたいに突き進めばよかったかな)
心残りがないようにするために恋人は作らないと決めたルール。
けれど、いくらルールを決めたところで、感情はそんなに簡単にコントロールできるものではなかった。
(逆に心残りになったりして…)
自嘲気味に笑う崇文の耳に、鋭い悲鳴が聞こえた。
ハッとして、階下に目をやる。
地下室から聞こえたはずの悲鳴は、一瞬にして寒々しい静寂へと姿を変えていた。