たとえばあなたが
耳をつんざく鋭い悲鳴が、空を切り裂いた。
松田は、反射的に目を閉じた。
悲鳴が途切れ、次に松田が目を開けたとき、そこには海が広がっていた。
鮮やかな、赤い海が。
松田は息を呑んだ。
目の前で、千晶が叫びとも呻きともとれる声を発しながら、のたうちまわっていた。
絞めるように自らの首に回した両手の指間から、血が吹き出している。
血は止まることなく流れ、千晶の腕を伝い、みるみる広がっていく。
一瞬のうちに、冷たい地下室の床が色を帯びた。
目を疑う光景だった。
呻く千晶の傍らに、登山ナイフが転がっていた。
その刃は、鮮血に染められていた。