たとえばあなたが
「…千晶」
ようやく発した呼び掛けは、声にならず千晶には届かなかった。
「…な…にを、してるんだ!お前が死んでどうする!」
千晶が、息を切らし肩で必死に呼吸をしながら、充血で異常な色を帯びた目を、松田に向けた。
それはこの世のものとは思えない形相で、彼女の精神もまた、すでにこの世にはないように見えた。
「俺を殺すんだろう?そのために今日まで生きてきたんだろう?無駄にするつもりか!」
その声が聞こえているのかいないのか、千晶は何かに操られているかのように這いずった。
やがて、じりじりと伸ばした右手が、銃を掴んだ。
その目から、真っ赤な涙が流れていた。
遠のく意識を奮い起こすように歯をくいしばる千晶に、もうかけるべき言葉はない。
松田が愛した黒髪から、血の雫がしたたり落ちていた。