たとえばあなたが
やがて突然、千晶を取り囲んでいた群衆が、恐怖の入り混じった悲鳴とともに散った。
「うああああぁぁああぁぁ!!」
涙で滲む崇文の目に、奇声を発する千晶が映った。
千晶は、群衆に拳銃を向けていた。
あの血まみれの体のどこに、そんな力が残っているのか。
けれどたしかに、千晶は銃を振り回して人々を威嚇している。
そこにいるのはもう、崇文の知っている千晶ではなかった。
野獣のように髪を振り乱し、血を吐きながら叫び続ける。
その姿は、崇文がこれまでに想像したどんな結末よりも、哀しかった。
―…救急車はまだか!
―…警察だ、警察を呼べ!
―…止血が先だ!
いつの間にか野次馬が増えて、周囲はひどく騒々しくなった。
人々が騒ぎ立てる隙間を縫って、千晶の叫び声が聞こえる。
そして、そのときは来た。
遠くから救急車のサイレンが聞こえたときのことだった。
千晶はほんの一瞬、恍惚とした表情を浮かべた。
そしてその直後、悪魔の形相で叫んでいた千晶が、充血した目を見開き、膝からアスファルトに崩れ落ちた。
「あははははははははははは!」
千晶は、天を仰いで笑い狂っていた。
千晶を取り囲む人々も、遠くの野次馬も、誰もが息を呑んだ。
狂った千晶は、笑いながらその場にうずくまった。