たとえばあなたが



マスターの目には、戸惑いの色がはっきりと見て取れる。



「…マスター、彼らと面識が?」

するとマスターは、やはりじっと倒れたふたりを見たまま答えた。

「このビルの、地下倉庫を借りてた人たちです」

「地下倉庫?」

マスターが示した先には、たしかに地下へと続く階段があった。



「何年か前に、テーブルと椅子を譲ってくれないかって来て。それから毎週のように姿を見かけてました」

階段から死んだふたりの元までは、引きずったような血の跡が続いていた。

中西が階段下を覗き込むと、ふたりが借りていたという地下倉庫にも大勢の警察官が出入りしている。



「下でも何かあったのかい」

と、ちょうど階段を上がってきた刑事に聞いた。

「地下にも男性の遺体が…って、あれ、中西さん。どうしてここに?」

その刑事は、今は別の課にいる中西がここにいることに、驚いた様子だった。



中西は、

「ちょっとな」

とだけ言って、その刑事と入れ違いに階下へ降りた。




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