たとえばあなたが
―…『俺、萌ちゃんが好きだ』
崇文の声が、頭の中で繰り返される。
『だからさ、萌ちゃん、幸せになってくれよな』
崇文の声はあまりにもいつも通りで、けれどあまりにも不自然な内容だった。
別れの挨拶のつもりだったのだろうか。
千晶に至っては、仕事の電話に夢中で会社を出て行ったことにも気づかなかった。
最後に交わした言葉も、思い出せない。
なぜ今まで、何も相談してくれなかったのか。
頼りないとわかっているけれど、それでも自分は千晶にとって親友ではなかったのだろうか。
『ありがとう、だってさ』
という崇文からの伝言が、千晶からの最後の言葉になってしまった。
この現実をどう受け止めればいいのか、今の萌には何も考えられなかった。
落とした視線の先に、千晶とお揃いのマグカップがあった。
カップの中の玄米茶は冷め切って、もう香ばしい湯気を立ち上らせてはいなかった。