たとえばあなたが



松田が約20年前に姿を消した理由。

今になって戻って来た理由。

取引先の崇文、そして部下の千晶との関係。



そして、彼らが死んだ理由。



わからないことばかりだ。

けれど、そんな中でもひとつだけ、わかったことがある。



今度こそ本当に、彼は死んだということ。

終わった、ということ。



礼子は顔を洗い流す手を止めた。

顔を上げると、顎から水がしたたり落ちた。

目の前の鏡に映っているのは、正真正銘、ありのままの自分だった。



そっと頬に触れてみる。



知らないうちに増えたシワが、取り戻せない年月を物語っていた。



テレビの音に紛れて、携帯の着信音が聞こえる。

礼子はリビングへ戻った。

懐かしい兄の名前が表示された液晶画面を見て、礼子は携帯を耳に当てた。




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