たとえばあなたが



夜明けを待つ新宿の街に、刑事が立っていた。

その隣に、妹が寄り添っている。

妹は俯いて、手に握った古いロケットペンダントを見つめていた。

街灯に照らされたその素顔は、愛しい人を想い、哀しみに満ちている。



ふたりの前に張り巡らされた非常線が風を受け、小刻みに震えていた。

その内側の事件現場は静まり返り、人を寄せ付けない空気を放つ。

数時間前まで立ち込めていた血の匂いはもう、消えていた。



ここで起こった出来事も、やがては人々の記憶から消えていくのだろう。



言葉なく立ちすくむ兄妹の横に、ひとりの女性が立ち止まった。

肌触りの良さそうなファーが揺れるコートに身を包み、柔らかい髪が風を受けてふわりとなびいた。



品がなく汚れた新宿の裏通りにはおよそ不似合いな、まるで人形のような女性だった。

彼女もまた、黙ってじっと現場を見つめていた。



やがて女性は、こらえきれずに嗚咽を漏らし、その場で泣き崩れた。



愛する親友たちの名を呼びながら。
















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