たとえばあなたが



「あ~おいしそう!ほら、食べようよ」

千晶は箸を持って、わざとらしく明るい声で萌を促した。



それでも萌は、

「研修医だよ?将来有望じゃん」

とぶつくさ言っている。

今にも大好きな豚肉のしょうが焼きを口に入れようとしていた千晶は、しょうがないな、という顔で箸を置いた。



「それも気になってたんだけどさ、研修医ってことは、かなり若いんじゃないの?」

「…25とか26とか」

「でしょ?私たち、もう30過ぎてるんだよ。いくら将来有望でも、ちょっと無理があるよ」

「今ドキ、そんなことないと思うけど…」

「研修医はお金も時間もないし、デートなんてロクにできないって」

千晶は大きな口で豚肉をパクリと食べた。



「ん~、おいしい!」

柔らかくジューシーで、鼻に抜けるしょうがの香りも良く、ちょっと濃い目の味付けがキャベツによく合う。

千晶は、しょうが焼きを外で食べるのならここが日本一だと思っている。



目の前の萌の不機嫌も気にならないほど、千晶の食欲は満たされていった。




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