たとえばあなたが
「あはは、もういいよ。とにかく何がなんでも参加したくないのね」
萌が目尻の涙を指で拭いながら言った。
「…まあ、ね」
なんだか形勢逆転されてしまったのが気に入らないが、それで萌が諦めてくれるのなら、と千晶は胸をなでおろした。
「あ、でも用事があるってのも、嘘じゃないから」
「わかったわかった」
「……」
完全に、立場が逆になっている。
それでも、また蒸し返して面倒なことになるのもイヤだったので、千晶は黙ってしょうが焼きに箸を伸ばした。
(つまんないことで時間取っちゃったな)
腕時計は、あと20分で昼休みが終わる時刻を告げている。
ふたりは、慌てて豚肉とキャベツと白飯を平らげた。
「ごちそうさまでした」
席を立つときに例の指定席をチラリと確認すると、まださっきの男性が座っていた。
広げていた新聞は、テーブルに折りたたんで置かれていた。
さっきは見えなかった顔が、お目見えしている。
ますますこんな店には不似合いと思わせるような、コワモテだった。
見ると、男性は千晶も好物のチョコバナナパフェを食べていた。
コワモテの大柄な外見と、甘いパフェのアンバランス。
それが妙にかわいく思えて、千晶は誰にも気づかれないようクスリと笑って、店を出た。