たとえばあなたが
新宿にある老舗デパートの社員休憩室で、石田崇文は携帯電話を見つめていた。
いつもほぼ決まった時間に鳴る電話。
今日も、そろそろ鳴るはずだった。
そう思った矢先、携帯の液晶ランプが点滅して、バイブが震えた。
「あれ?」
ランプの色が、着信ではなくメールの受信を知らせている。
(…今日は電話じゃないのか)
崇文は、少しがっかりしながら携帯を開いた。
【今日残業になっちゃった!ごめん~】
「…残業だと~?」
タバコの煙が充満する、夕方の休憩室で、崇文は顔をしかめた。
「カレー食いに行くっつったのは、お前だろうがよ」
直前になって食事の約束のキャンセルが入り、つい不満が口をついた。
と、そのとき、背後に人の気配がした。