たとえばあなたが
女性は、崇文が携帯を閉じたのを見て、
「え~石田さん、あやしい~」
と大きな声で言って、隣の椅子に座った。
(相変わらず、くせぇ…)
タバコの煙もかき消すほどの、香水の匂い。
崇文は、さりげなくスーツからハンカチを取り出して、鼻を覆った。
「あら、風邪ですかぁ?」
女性が顔を近づけてきて、ハンカチ越しでも崇文の鼻がツンとした。
「…ええ、ちょっと鼻水が」
「やだぁ、香水変えたから、感想聞きたかったのにぃ」
「えっ」
崇文は思わず言葉に詰まった。
(変えたのか、香水…)
ここまで強い香りだと、全部同じように感じてしまうらしい。
崇文は、
「あはは。すいませんね、わからなくて」
と愛想笑いを返すのが精一杯だった。