たとえばあなたが
延々と続く苦情に疲れ果てた頃、ようやく電話は切れた。
千晶は終話ボタンを押して携帯をソファに放り投げると、洗面所に引き返した。
濡れた髪を早く乾かさないと、風邪を引いてしまう。
(それにしても…)
ケバくてクサい女に、同僚の目の前で拉致される…。
千晶は、いとこの崇文がそんな目に遭っているところを想像して、吹き出した。
いつも自分のために奔走してくれる、やさしい崇文。
愛想を尽かされたら大変だ。
(今度ちゃんと埋め合わせしてあげなくちゃ)
ドライヤーのスイッチを入れると、ブォーッという轟音が洗面所に響いた。
最近手に入れた、お気に入りのマイナスイオンドライヤーから熱風が吹き出す。
勢いの良い風が、長い髪を乾かしていく。
(…今日も何もない一日が終わるのか…)
風の強さのせいか考え事のせいか、千晶の表情が険しくなった。