たとえばあなたが



大輔がリビングを出て、階段に足をかけたとき、ちょうど2階から少年が降りて来た。



「おい……」



と、声をかけたが、彼はそんな父の姿になど目もくれず、スッと横を通り抜けて玄関に向かった。



「おい!」



そのまま、呼び止める父をさらに無視して、少年は外に出て行ってしまった。



「……」



ここ最近、息子とは会話らしい会話が一切ない。



幼い頃から不器用な子ではあったが、悪い道を選ぶような育て方をした覚えなどない…―



(心根はやさしい子だと思っていたが…)



一時的な気の迷いだと信じたい。



そんな思いで、玄関の扉を見つめた。



背後でカチャリと音がして、振り向くと朋美がリビングから顔を出した。



「…ダメだった?」



「ああ」



父親の面目丸つぶれ、という心境でポリポリと頭を掻いて苦笑いをした。



反抗期の子供を持った家庭の、何気ない日常。



ところがその数分後、その光景は、忘れ去られることになった。




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