たとえばあなたが
悪びれない萌の笑顔に千晶も笑みを返して、やっと電話に意識を集中させた。
「…というわけでして、展示作品の追加は、会期中には間に合わないことをご理解いただければと思いまして―…」
『え~困りますぅ』
「……」
このしゃべり方を相手にイラッとするのをこらえるのには、まだ慣れない。
(ていうか、いつまでも慣れそうにない)
千晶は、相手に自分の顔が見えないのをいいことに、ひきつった笑顔で、
「ですが、打ち合わせの段階でそういったお話はさせていただいたはずです」
と、やや強気な口調で言った。
『え~でもぉ、売れてるんですよぉ。リアルさんにだって損な話じゃないですよねぇ?』
(…損得の話じゃないっ!)
海外から作品を取り寄せているということを、この人はわかっているのだろうか。
新人でもあるまいし、そのくらいの事情は頭に入れておいてもらいたい。
千晶は、引き下がらない礼子を説得するのに、それから40分を要した。