たとえばあなたが
「会期後に現品を発送する段取りにはしなかったんですか?」
崇文は、やや強い口調で礼子に向き合った。
すると礼子は、まるで照れた小学生のように体をクネらせて、
「だってぇ、すぐ家に持って帰りたいって言われたら断れないんですもん」
と上目遣いで崇文を見た。
(…キモッ!)
あやうく出かかったひと言を喉元に押し込め、
「…せっかく北海道展の流れで人が来て、売り上げが伸びている時期じゃないですか」
と諭してみる。
だが内心では、いい歳してまともな対話をしようとしない礼子に腹が立っていた。
「このチャンスを利用しないでどうするんですか」
「こっちだって発注かけてるんですよぉ。でも『ありません』の一点張りなんですもん~」
(…なんだとぉ~)
千晶は40分もかけて説明したと言っていた。
それを、『ないの一点張り』とは何事か。
プロの仕事とは到底思えない。
「ないならないで、なおさら現品持ち帰りは避けるのが当然でしょう!」
カッとなった崇文は、そのまま礼子に背を向けて、次の催事場へ向かった。