たとえばあなたが
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新宿の古いビルにあるバーの地下。
小さな電球がひとつしかなかった埃っぽい倉庫に、蛍光灯を取り付けたのは5年前。
それでもまだ、居心地がいいとはお世辞にも言えなかった。
空調もないジメジメした倉庫は、夏と冬には地獄のようだ。
どちらかといえば冬のほうがいい、と千晶は言う。
「どうして?冷凍庫並みなのに」
シュボッと音がして、ライターが炎をあげた。
崇文は、タバコをくわえて火をつけた。
ふぅっと息を吐いて視線を向けると、千晶はわざとらしく顔をしかめて煙を嫌がった。
「夏のサウナ状態よりはいいわ」
バーの主人から譲り受けた木製のテーブルと椅子は、使い込まれて黒光りしている。
千晶はそれを気に入っていて、丸いテーブルのふちをなぞるように指をすべらせた。
カタッと椅子を引いて千晶が座ったとき、扉の向こうから階段を駆け下りる音が聞こえた。
崇文が腕時計を見て、小さく舌打ちをする。